流通小売業によるサプライチェーン変革が 豊かな“食”を守る
日本の流通小売業の変遷と現状
■日本独特の「いいものを安く」文化の功罪
流通小売業は「衣食住」を支える基盤である。だが、欧米のそれと比較してみると、日本の流通小売業では、決して楽観できない幾つもの課題が浮き彫りになってきている。その一つが、生産性が低く、利益率も低い傾向にあることだ。
「いいものを安く」提供することが美徳であるという日本独特の文化は、ダイエー等の流通小売業に代表されるものとして想起されがちだが、松下電器産業(現・パナソニックホールディングス)、トヨタ自動車等の製造業にも同様の傾向が見受けられる。
ただ、それが美徳と言い切れたのも1950 年代から1970 年代頃までであろう。三種の神器と呼ばれた「白黒テレビ」「洗濯機」「冷蔵庫」が庶民の手に届かなかったこの頃、企業はこれらの家電を安価に提供することに使命感を覚え、自らの努力でそれをかなえようとした。また、生活者のニーズは「周りが欲しいモノや手にしているモノを自分は持っていないから欲しい」というシンプルなものであり、プロダクトアウトで製品が次から次へと売れた。
しかし、高度成長期に入り、庶民にとって最低限のニーズが満たされ、所得も増えてくると、より高性能なテレビ、より多機能な冷蔵庫というように周りとは違う自分のニーズに合致した特別なモノへと消費の傾向が変化していった。こうして市場がプロダクトアウトからマーケットインへ移ると、大量生産を前提としがちな「いいものを安く」では生活者の個別のニーズに対応できなくなっていった。(図1)
欧米では流通小売業の再編が活発に行われ、米国では資本力のあるスーパーマーケットチェーンが地場の競合他社を買収して商圏ごと手に入れるといった手法で、大規模化による効率重視路線が目立った。
対して「いいものを安く」、そして「目移りするほどの品ぞろえ」で応えようとした日本は、過剰と思われるほどの品質を追求しながらも、「安くしなければ売れないマーケット」へと、“ 歪み” を大きくさせていった。
■伸び悩む物価が作り出した「安い国」日本
この日本の特徴的な歪みは様々な製品・サービスに見ることができるが、牛丼のファストフードはその典型例の一つと言える。原料である牛肉の調達等に四苦八苦しながら大手チェーン達は価格競争に明け暮れ、お互いに牽制しあい、この20 年で値段は上昇していない。それどころかリーマンショックから数年経った2010 年頃から、いわゆる「牛丼戦争」と呼ばれる各社一斉の値下げ合戦が繰り広げられた。このときの最安値である270 円を見た際に違和感を覚えた人はどれくらいであろうか。その後価格は上昇するものの、2000 年当初の価格には及んでいない。飽くなき低価格化、それにより価格上昇(値上げ)が難しくなってしまう“ 歪み” の代表例といえるであろう。
海外と比較してみても、日本の物価が低い水準となっていることは明らかである。消費者物価指数の推移を見てみると……
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